「行政手続法」と行政書士の役割(1999年10月、島田雄貴)

行政の公正・透明化を進めようと行政手続法が施行されて一日で五年。行政書士によると、許認可申請の握りつぶしやスローモーな対応を追放するため許認可の審査基準や標準処理期間を設けて公にするなど、法に沿った改善策は市町村段階まで浸透が図られてきた。だが、内容面などでの課題は多い。島田雄貴リーガルオフィスが、行政手続法の課題と行政書士の取り組みについてまとめます。

不当な行政指導への抑制効果

圧力型の指導も

行政書士事務所や行政書士の団体によると、行政手続き法により、不当な行政指導への抑制効果も出ているようだが、なお圧力型の指導も水面下では行われており、監視が必要だ。行政の透明化では、情報公開法が成立して新しい時代に入った。今後は公開性の拡大にとどまらず、重要政策づくりに国民の意見を反映させる国民参加の法整備が課題になっている。

条例の存在が知られていない

法施行五年で担当の総務庁がショックを受けているのは、市町村で九五%が行政手続条例を制定しているのに法律があまりにも知られていないことだ。

知っている人は2割

この六月に総務庁行政監察局がまとめた行政手続きの監察結果では、行政手続法の趣旨を知っていたのが、事業者、団体など四百五十三のうち一七%、名前を知っているを入れても二七%だった。

審査が不適切な例も

審査基準、標準処理期間の設定では、九七年三月現在で、国の段階では八八%、七七%の達成率を示しているが、一般の市も含めた監察結果ではかなり低くなっている。審査基準の中身も、具体性を欠いていたり、どの通達のどの部分が審査基準に該当するのか明確にしていなかったり、不十分、不適切な例が指摘されている。

規制緩和の要望書に反発する省も

法施行で不当な行政指導が減っているのかどうかが焦点だが、その実態ははっきりしない。監察担当者らは抑制効果がかなりあると見ている。しかし旧態依然たる面も残っている。

経済団体連合会が昨秋、政府に規制緩和の要望書を出したが、関連の省が「そんな要求を出すのはけしからん」といって業界幹部を呼びつけたこともあった。

別の許認可で嫌がらせ

また、ある行政書士が調べたところ、省の方針に異論を唱えたら、別の許認可で嫌がらせをさせられ、「江戸の敵を長崎で討たれる」ような例もあったという。

監察結果でも、労働省が一般労働者派遣事業の有効期間の更新で、過去に派遣実績がなかった業務について次回更新時までに実績がなければ対象業務から削除して申請するよう指導し、念書までとっていた。行政指導はあくまで任意の協力が原則であり、その後改善された。

自治体では、産業廃棄物の処理施設の設置のトラブル
周辺住民の同意を許可条件に

自治体関係では、産業廃棄物の処理施設の設置をめぐって、周辺住民の同意を許可条件にした要綱行政のトラブル例が監察結果にもあがっている。

行政書士が申請の代行

行政指導の文書化を求める

法律では、要求すれば行政指導を文書にしてもらうことができるが、この活用例は総務庁や経団連もつかんでいない。しかし、行政書士が申請の代行をして文書化を積極的に求める運動が広がり始めていることが分かった。

警察、入国管理関係では拒否
口頭の指導を自分が文書にして役所に確認

東京都の行政書士によると、都や区へ要求すると文書をよくもらえるが、警察、入国管理関係では拒否される方が多い。拒否されても口頭の指導を自分が文書にして役所に確認してもらい、記録を残しているという。

訴訟の証拠に

不当な行政指導を防ぎ訴訟になったときの証拠になるので文書化の運動はさらに広がりそうだ。この問題で、経団連は行政指導はすべて文書にするよう求めている。

裁量行政の根拠になっている権限規定

前国会で成立した中央省庁改革関連法では、裁量行政の根拠になっている権限規定が各省庁の設置法から外されたが、残った所掌事務の規定で相変わらずの裁量行政が行われるのではと心配する声もあがっている。法案処理の段階でその防止が付帯決議にうたわれたが、行政に対する不信感の根強さを示す一例だ。

行政手続きに民意を反映させる法整備

行政書士や市民団体などからは行政手続きに民意を反映させる法整備を訴える声があがっている。行革国民会議の並河信乃事務局長は「規制に関する政省令の作成に国民の意見を求めるパブリックコメント制度を政府が始めたが、行政のサービスという考えではなく、行政の義務、国民の権利として意見を反映させる制度にすべきだ」という。

中央省庁改革基本法

この制度は政省令制定や計画策定の手続きとして議論されてきたが宿題になっている。中央省庁改革基本法は重要政策の立案には「広く国民の意見を求め、考慮し決定する仕組みの活用、整備を図る」と明記している。国民の声を反映させる制度を作り上げるべき時期にきている。

審査手続きへの住民参加を

兼子仁・東京都立大名誉教授(行政法)の話 第一ステップとしては、職員の意識改革も含めて直接、間接の効果とも出ている。第二ステップとして行政指導の文書化要求など積極活用をして内容を充実させていくべきだ。行政システムは急には変わりにくいので長い目で見る必要がある。審査手続きへの住民参加の方策も今後は考えていったらよい。

行政手続法の仕組み

<行政の公正・透明化>
申請に対する処分(許認可など)

審査基準、標準処理期間の設定
拒否の場合の理由提示

不利益処分(営業許可取り消しなど)

処分基準の設定、公表
聴聞、弁明手続きで反論の機会付与

行政指導

任意の協力が原則
従わないことを理由にした不利益扱いの禁止
求めに応じて書面の交付

行政手続法とは

1964年の第一次臨時行政調査会の提言以来の懸案となっていたが、第三次行革審(臨時行政改革推進審議会)の法案要綱や行政書士会の提言を受けて93年に法律がやっとできた。情報公開法とともに行政の公正・透明化を進める車の両輪ともいわれる。